予防運動研究会

代表インタビュー - おすすめ書籍のご紹介            

運動を指導するとき、身体、心のあり方を考えて指導していますか?
「運動の専門家」として、包括的に人と関わる私たちが、今、読むべき本とは何か。
予防運動研究会 中村尚人代表に聞きました。


予防運動研究会代表 中村尚人おすすめ図書


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■ おすすめ書籍の第1冊目は、春木豊先生の
「動きが心をつくる 身体心理学への招待」(講談社現代新書)です。


著者:1933年東京生まれ。早稲田大学大学院博士課程修了。文学博士。専攻は身体心理学、健康心理学。早稲田大学人間科学部教授などを歴任。早稲田大学名誉教授。編著書に『身体心理学』(川島書店)、共著書に『健康の心理学』(サイエンス社)、共編著書に『学習心理学』(サイエンス社)など。

▶ 心が先か、身体が先か

僕たちは「膝が痛い」と言う人がいると、「ああ、この人は膝が痛い人なんだ」とみてしまいます。
でも、膝は痛くなるまでには色々な原因がありますよね。その原因の方を見ましょう、なぜ膝が痛くなったのかを考えましょう、というのが「予防」の考え方なんです。

そして、その原因が「心」の問題から来ることもあるし「身体」の問題から来ることもあるというのは、なんとなくみんな知っていて、「心も身体も両方大事だよね」とは言いますよね。
でも、心が先か身体が先か、というところは僕もそうだけど特に考えたことがなかったと思います。

この本に書かれている、とにかく大事な話は「身体が先で心はあとなんだ」ということです。
現象として、病気として、心の問題が先ということははもちろんありうるのですが、生物の進化、生物学的な視点から考えて、「身体よりも心はあとにできた」っていうことがなによりもすごくセンセーショナルだと思うんですよ。とてもしっくりきたわけですね。


▶ 身体から心をみる

僕たちは相手の心をみるときに、「身体から心をみる」という視点が今までそんなになかった。
心理学というとカウンセリングや、欲求段階だとか、自己の喪失があるのかとか、そういう分析のようなイメージですよね。 でも、この本を読んでいくと、「身体の専門家は心の専門家だ」と分かってくるんです。

僕たちは運動療法を行うときに、心の大事さは分かっていても、あくまで「オプション」という見方をしていたと思います。 いやいやいやいや!身体は心を作ってますよ!という話です。
動きが心をつくる。これば僕らにとっては運動療法で心に対してアプローチができますよ、という、その根拠となる本なわけです。だからすごく大事なんです。とんでもない本ですよ。

脳が身体を支配している、というのはあくまでそういうひとつのシステムであって、その脳をあらしめているのは身体なんですね。 統括役・統合役としての脳という存在はもちろんあるのですが、では身体というものが脳に対して従属的に支配されているだけの存在なのか、といったら、それは統制があってフィードバックがあって、この繰り返しでしかないわけです。
フィードバックという言葉は、バックだから、脳が先に(指令を)出していると僕たちは思っていますが、身体が先なのだから、フィードバックじゃないんですよね。
そもそも身体から脳にいったのが先だから。
僕らの常識が覆るわけです。身体ですよ、ということが、もう痛いほどわかる本です。


▶ 三つ子の魂百まで

子どももすごく複雑なことを考えている、とは分かっているのですが、ただ複雑というのは統計的な処理をしゃべる前からすでにしている、ということです。
例えばアリだとか、いわゆる心はないといわれるような昆虫たちですら、統計的にこっちの方が有利だろうという方を選んでいるわけです。こっちに行った方が短距離でいける、とか。
だから生きるということは本能的であっても統計学にのっとっています。すごく計算高く、無意識だけど動いているのです。

でもそれはいわゆる心というものとはちょっと違っているんですよね。
心とは関係なく、計算して全部できているわけです。
乳児に心があるかといわれると、もちろん気分とかお腹がすいたとか、いわゆる欲求的なものはありますが、大脳皮質的にはやはりそこまで発達しているわけではないんですね。
だから、心は作られていく、と考えた方がいいと思います。

その心をつくっていくという段階に当然身体が関わってきます。
だからこそ、幼少期の親子関係っていうのはその人の人生、性格、くせ、考え方、つまり心をほぼ決定してしまうわけです。だから三つ子の魂百まで、なんですね。


▶ 身体の教育をすることで心がつくられる

心は何でつくられるんだっていったら、スキンシップというような人間関係もそうですが、やはり運動というものがフィードバックをしてつくられていくのだと思います。
こういう風にすると痛いんだな、とか、ここまでやると壊れるんだな、とかやったことに対するフィードバックを受けながら、学習をして、洗練されて作られていくのです。
逆に言うと、やはり運動機能が低下していると、心が豊かでなくなったり、感性が鈍くなってしまうという可能性はありますね。心がないなんてことはないですが、犯罪と幼少期の教育環境の関係がある、と分かっているわけだから、その背景に、僕はなにかしら運動やスキンシップといった、もう少し肉体的な要因があると思っています。虐待ってだからこそ問題なわけです。

こういう声かけをすると心が育つ、というのももちろんあると思いますが、そこじゃあないでしょ、と思います。「やだやだやだ」という子に対して「こら」という言い方じゃなく、じゃあどうやったら解決できるかなって示唆を与えて本人を変えさせていくとか、声かけの影響力はもちろんあると思います。
でも、大事なのは身体に対して、ということだと思うんです。タッチセラピーだったり、カンガルーケアでもそうですよね。
声かけ以前の問題として、身体でどうコミュニケーションをとっていくかということが大事だと思うんです。
だって声かけをいくらしたって、子どもが声かけを理解するようになるのは3歳くらいです。でも三つ子の魂っていうのは1、2、3歳。1、2歳なんて言葉はほとんどわからないです。ということは身体の方がわかるんですよね。その時期にしっかりと親が身体の教育をするというのが大事だと思います。


▶ 大事なのは気づきの促通

この本の中で「身にしみて分かる」というのがあります。
身にしみないとわからない、ということなんです。
腑に落ちるというのは、腑という内臓に落ちないとわかったとは言わないんですね。
「いやーなんか腑に落ちないんですよね」というのは頭ではなんとなくわかるんだけど、腑には落ちない、つまり身体には落とし込めていないということですね。
身体を通して理解する、わかるということがあるんですよ。
だからいくら理論だてて「こういう運動がいいですよ」とか「こういう風にして歩くといいですよ」とか言っても、相手の腑に落とさせなきゃいけないし、それを身にしみさせないといけないわけです。ということは、そのためにどうわかりやすくして、どう本人に実感してもらうか、ということなんです。
まさに 予防運動アドバイザー養成コースSTEP2で学ぶAwareness Facilitation(気づきの促通)がすごく大事になってくるんですよね。


身体ですよ。心は誕生したんですよ、身体のあとに。

「予防」を勉強するのであれば、この本は必須です。素晴らしい本ですよ。
人と関わるのであれば読まなければだめだと思います。
人という存在がなんなんだろう、ということがわかるわけです。
なぜ仏教の中に修行法として座禅なり読経なり、朝の掃除なりがあるのか、ということがわかるのです。それぞれの宗教にはみんな身体技法がある。身体をあらわすのです。概念だけではないんです。


▶ 身体の専門家が心をつくる

運動療法の専門家として、心をもっとみましょう。
心は心理学の分野だとか、OTの分野だとか、そういうことではないのです。身体の専門家が、実は心をつくるんです。

ポジティブ/ネガティブシンキングについて考えると、心理学的には「なぜあなたはネガティブシンキングなんでしょうね。」となります。そして、過去のトラウマを・記憶を話してください、というカウンセリングになりますね。
身体心理学的に言えば、口角をあげる筋肉を鍛えましょう、という話になるわけですよ。
ポジティブポスチャー、ネガティブポスチャーっていうのと一緒です。
姿勢は心に影響を与えているんです。表情もそうですね。
口角をあげているだけでおもしろくなる。口角を下げるだけでつまらなくなる。
人生、口角あげているのと下げているのと、どちらが楽しいですか。
ポジティブシンキングにしましょうって言うより、口角あげましょうって言った方が早いですよね。


▶ 包括的に人をみる視点を

身体心理学という表記は、心理学に身体がつきます。これはとても変な表記なのです。だって身体と心で分けるから心理学なわけだから。身体心理学は人間学、または生物学的視点からみた心理とは、みたいな感じですね。
身体と心は一緒、という発想なわけです。
身体と心は違うということがまず第一条件としてあるというのは西洋の発想ですよね。
そんなことないよっていうのを科学的に証明というか、論拠だてているので、面白い本なんです。
僕は科学というのは、なんとなく、ということではなくて、クリアに物事をみていくことだと思っています。
この本には、心理学の分野の第一線を走ってこられた春木先生がいきついた結論というのが、理路整然と書いてあるのです。運動というもの、人というものの意味を、包括的に、かつ整理をされて書かれています。心理学の世界の問題点に春木先生は気付かれていたわけです。心理学というものに対して、「身体を忘れてますよ」というアンチテーゼを出したのです。
医療の世界も西洋からきているから、「心は精神科」「身体は整形外科」と分けて考える。つまり心と身体は分けて考えられています。
心の病が身体の症状として出る場合には心療内科で心身症として扱いましょう、となります。
だけど、そんな風には分けられないですよね。

運動療法として運動を指導する僕たちも、心の分野は精神科ですよ、とかカウンセリングは臨床心理士じゃないとできませんよ、というわけではないでしょう。運動が心を作ってますから、まさに僕らの分野なんですよ。
包括的に人をみるためには、この本に書かれている視点がないと厳しいかなと思います。
こういう視点は学校ではまったく教えてくれませんから。本当にマストな本です。